この記事を書いた人

消化器病学会専門医、内視鏡学会専門医、肝臓専門医であり日本内科学会認定医の資格を持ち、医師として約10年医療現場に立つ。
特に消化器疾患の分野に力をいれており、苦痛の少ない内視鏡検査によるフォローや大腸ポリープ切除、日々のQOLに関わる機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群といった機能性消化管疾患、現在注目を集めている膵疾患など幅広く診療する。
2025年秋に武蔵小杉でクリニックを開業予定。

膵臓は、消化酵素や血糖を調整するホルモンを分泌する重要な臓器です。その膵臓が長期にわたってじわじわと傷つき、機能が低下していく病気が「慢性膵炎(まんせいすいえん)」です。初期には自覚症状が乏しいことも多く、進行すると生活の質や全身の健康に大きく影響するだけでなく、膵がんのリスクにもつながります。そのため定期的な画像検査によるチェックと内服加療を必要とします。

慢性膵炎の初期症状

慢性膵炎の初期には、症状がはっきりしないことが多く、「胃もたれ」「みぞおちの重さ」「背中の違和感」など、曖昧な不快感が続きます。特に、脂っこい食事をとった後にお腹の張りや吐き気、下痢が起こることがあり、軽い胃腸炎と思って見過ごされることもあります。

進行すると、膵臓の消化機能が落ちて栄養吸収がうまくいかなくなり、慢性的な下痢や体重減少、さらにはホルモン分泌が低下し糖尿病を合併することもあります。痛みが強いと、食事を避けてしまい、さらに悪循環になるケースもあります。

慢性膵炎の検査

慢性膵炎の診断には、血液検査、画像検査、膵機能検査など、複数の検査を組み合わせます。

血液検査では、膵臓の酵素(アミラーゼ、トリプシン、リパーゼ、ホスホリパーゼ、エラスターゼ1)の異常、血糖値の変動、炎症の有無などをチェックします。ただし慢性化すると、これらの数値が正常に戻ることもあるため、画像検査がより重要になります。

画像診断では、腹部エコー検査やCT、MRIなどを用いて膵臓の形や膵管の変化、石灰化の有無を確認します。特に膵石や膵管の狭窄が見られれば、進行した慢性膵炎と判断されます。

慢性膵炎の診断基準

日本膵臓学会による慢性膵炎の診断基準では、以下の3点を主に評価します。

  1. 症状:持続的な腹痛や下痢、消化不良
  2. 画像所見:膵管の不整、膵石の存在、膵臓の萎縮など
  3. 膵機能障害:膵液の分泌低下、消化酵素の減少、糖代謝異常など

典型的な慢性膵炎では膵石や膵管の変化が画像で確認できますが、早期の場合は微細な変化しか見られないこともあり、EUS(超音波内視鏡検査)が有効です。

慢性膵炎の原因

慢性膵炎の主な原因は長期間にわたる飲酒です。アルコールが膵臓に直接的な炎症を引き起こすだけでなく、膵液の流れを妨げ、膵管の内部でタンパク質の沈着や結石の形成を促すと考えられています。

そのほかにも、以下のような原因があります:

  • 喫煙
  • 高脂血症
  • 遺伝性疾患
  • 自己免疫性膵炎
  • 繰り返す急性膵炎

原因が特定できない「特発性慢性膵炎」も一定数存在します。

慢性膵炎と食事

慢性膵炎の治療において、食事管理はとても大切なポイントです。膵臓への負担を減らすため、脂肪の摂取量を制限することが基本となります。

具体的には、揚げ物やバター、クリーム系の料理を避け、消化にやさしい食品(野菜・魚・豆腐・おかゆなど)を少量ずつ、回数を分けて摂取することがすすめられます。また、アルコールとタバコは厳禁です。これらは病気の進行を早めるだけでなく、痛みの再発を誘発するため、完全に断つ必要があります。

慢性膵炎の治療

治療は、膵臓の負担を軽減し、進行を食い止めることが目的です。以下のような対応がとられます。

  • 食事療法:低脂肪・高栄養の食事を継続
  • 禁酒・禁煙:再発や悪化を防ぐために必須
  • 薬物療法:膵酵素補充薬(消化不良対策)、抗炎症薬、鎮痛薬、胃酸抑制薬など
  • 膵石や膵管狭窄がある場合:内視鏡による処置や外科手術

進行に伴い糖尿病や消化不良が明確になると、インスリン注射やビタミン補給が必要になることもあります。

慢性膵炎の生存率と予後

慢性膵炎そのものがすぐに命に関わる病気というわけではありませんが、膵臓の機能が徐々に失われる進行性疾患であるため、長期的には全身への影響が出てきます。

特に慢性炎症により膵がん発症リスクの上昇が知られており、定期的な経過観察により膵がんの早期発見、早期治療が推奨されています。

慢性膵炎は、早期発見と継続的な管理が大切な病気です。「最近、油ものがつらい」「お腹の痛みが続く」「健診で膵臓が気になると言われた」といった方は、放置せず一度医療機関を受診してみてください。当院では、血液検査や画像検査を組み合わせた丁寧な診断と、生活指導・治療方針のご提案を行っております。将来の合併症を防ぐためにも、早めの対処をおすすめします。