この記事を書いた人

消化器病学会専門医、内視鏡学会専門医、肝臓専門医であり日本内科学会認定医の資格を持ち、医師として約10年医療現場に立つ。
特に消化器疾患の分野に力をいれており、苦痛の少ない内視鏡検査によるフォローや大腸ポリープ切除、日々のQOLに関わる機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群といった機能性消化管疾患、現在注目を集めている膵疾患など幅広く診療する。
2025年秋に武蔵小杉でクリニックを開業予定。
膵嚢胞性疾患とは
嚢胞の種類によって治療方針が大きく異なるため、「どのタイプか(鑑別)」が極めて重要です。
代表的な膵嚢胞性疾患は以下の通りです:
- 漿液性嚢胞腫瘍(SCN):ほとんどが良性
- 粘液性嚢胞腫瘍(MCN):がん化リスクあり
- 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN):がん化する可能性があるため定期的な観察が必要
- 仮性嚢胞(膵炎後など)
- 充実性偽乳頭状腫瘍(SPN):若年女性に多く、一部はがん化
- 嚢胞性膵がん:すでにがん化している状態
膵嚢胞性疾患の症状
多くの膵嚢胞性疾患は無症状のまま発見されます。人間ドックや健康診断の腹部エコー検査、CT、MRIなどで偶然見つかることが一般的です。
一方で、嚢胞の大きさや位置によっては、次のような症状が現れることもあります:
- 上腹部の違和感や圧迫感
- 背中や腰への鈍い痛み
- 食欲不振、吐き気
- 黄疸(膵管を圧迫した場合)
- 急性膵炎(嚢胞が膵管を圧排し閉塞した場合)
がん化が進んでいる場合には、体重減少や糖尿病の悪化、明らかな腹痛などが出ることもあります。
膵嚢胞性疾患の原因
膵嚢胞の原因は、先天的な発生異常から、炎症の後遺症(膵炎後の仮性嚢胞)、腫瘍性変化によるものまでさまざまです。
たとえば、
- SCN:女性に多く、加齢や体質に起因することが多い良性腫瘍
- MCN:中年女性に好発し、女性ホルモンの影響が示唆される
- IPMN:膵液の分泌異常や腫瘍細胞の変化が関与し、高齢男性に多い傾向
- 仮性嚢胞:急性膵炎や慢性膵炎によって炎症が起こり、周囲に袋状の液体貯留が形成される
明確な原因が不明なものもありますが、近年では高脂血症、糖尿病、肥満など生活習慣との関係も注目されています。
膵嚢胞性疾患の診断
「膵嚢胞がある」と言われたときにまず重要なのは、それがどの種類の嚢胞なのかを見極めることです。鑑別には以下の検査が用いられます。
- CT・MRI:嚢胞の大きさ、内部構造、壁の厚さ、膵管とのつながりを評価
- EUS(超音波内視鏡検査):嚢胞の詳細構造を確認し、内部結節の有無などを精査
- 嚢胞液の検査:CEA(腫瘍マーカー)やアミラーゼなどを測定し、腫瘍性か非腫瘍性かを判断
- 造影検査:膵管との交通を調べ、IPMNの可能性を探る
IPMNとMCNは外見上似ていても治療方針が異なるため、鑑別が非常に重要です。
膵嚢胞性疾患の治療
治療方針は、嚢胞の種類・大きさ・位置・がん化のリスクに応じて異なります。
- 漿液性嚢胞腫瘍(SCN):ほとんどが良性で、症状がなければ定期的な画像検査による経過観察で十分
- 粘液性嚢胞腫瘍(MCN):がん化のリスクがあるため、原則として外科的切除
- 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN):主膵管型や大きな分枝型では手術がすすめられることがあるが、分子型の小さく、がん化リスクが低いものは経過観察も可能
- 仮性嚢胞:炎症が治まれば自然に吸収されることも多い。膿瘍化を疑う場合は必要に応じてドレナージ(排液処置)を行う
- SPN・嚢胞性膵がん:がんの可能性があるため、早期の外科的切除が原則
また、高齢者や基礎疾患のある方では、リスクとベネフィットを天秤にかけて、手術を行わず慎重に経過を見守ることもあります。
膵嚢胞性疾患は一言で言っても、その中には多くの種類があり、良性で経過観察のみで済むものから、積極的な治療が必要なものまで多岐にわたります。画像での発見率が高まっている今だからこそ、「見つかったらどうすべきか」の判断が大切です。
当院では、膵嚢胞の種類の鑑別や、治療が必要かどうかの判断を、専門的な知識と設備をもとに行っております。「嚢胞が見つかった」「がんではないか不安」「経過観察でいいのか知りたい」という方は、ぜひ一度ご相談ください。必要に応じて高度医療機関との連携のもと、適切な診療をご提案いたします。