この記事を書いた人

消化器病学会専門医、内視鏡学会専門医、肝臓専門医であり日本内科学会認定医の資格を持ち、医師として約10年医療現場に立つ。
特に消化器疾患の分野に力をいれており、苦痛の少ない内視鏡検査によるフォローや大腸ポリープ切除、日々のQOLに関わる機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群といった機能性消化管疾患、現在注目を集めている膵疾患など幅広く診療する。
2025年秋に武蔵小杉でクリニックを開業予定。

肝臓は体内の解毒や代謝、栄養の貯蔵など、さまざまな役割を担っています。そんな大切な臓器が、長期にわたって炎症を起こし続ける病気が「慢性肝炎」です。初期にはほとんど自覚症状がないため、知らず知らずのうちに進行し、肝硬変や肝がんにつながることもあります。ここでは、慢性肝炎の基礎知識から、原因、脂肪肝との関係、治療法や日常生活で気をつけたい食事について、わかりやすく解説します。

慢性肝炎とは

慢性肝炎とは、6か月以上にわたって肝臓に炎症が続いている状態を指します。慢性化すると、肝細胞が徐々に壊れて線維化(硬くなること)し、進行すれば肝硬変や肝がんに発展するリスクが高まります。

原因の多くはウイルス感染ですが、近年は生活習慣病と関係する脂肪肝型の肝炎も増えています。血液検査や腹部エコー検査を行い、病状の確認と肝硬変への進展を防ぐことが重要です。

慢性肝炎の症状

慢性肝炎は初期の段階では自覚症状が少なく、健康診断で肝機能の異常を指摘されて気づくケースが多く見られます。症状が進行してくると、以下のような兆候が現れることがあります。

  • 倦怠感(疲れやすさ)
  • 食欲不振
  • 右上腹部の不快感
  • 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
  • むくみ

これらの症状が出るころには、すでに肝臓の機能がかなり低下していることもあるため、早めの受診と検査が大切です。

慢性肝炎の原因

慢性肝炎の主な原因は、ウイルス感染です。特に以下の2つが代表的です。

  • B型肝炎ウイルス(HBV)
  • C型肝炎ウイルス(HCV)

このほか、以下のような原因によっても慢性肝炎が起こることがあります。

  • アルコールの過剰摂取
  • 自己免疫性肝炎(免疫の異常)
  • 薬剤性肝障害
  • 脂肪肝に伴う肝炎(後述)

感染経路や原因により、治療の方針が異なるため、正確な診断が必要です。

慢性肝炎と脂肪肝の関係

脂肪肝とは、肝臓に脂肪がたまった状態を指します。単なる脂肪肝であれば進行しにくいのですが、肝臓に炎症が加わった状態「代謝異常関連脂肪性肝疾患(MASLD)」になると、慢性肝炎と同じように肝硬変や肝がんのリスクが高まります。

このような脂肪肝型の慢性肝炎は、糖尿病や肥満、高脂血症などと深く関係しており、生活習慣の見直しが非常に重要です。

慢性肝炎はうつる?

ウイルス性の慢性肝炎(B型・C型)は、血液や体液を介して他人に感染する可能性があります。たとえば以下のような経路が知られています。

  • 輸血、注射針の共用
  • 性的接触
  • 出産時の母子感染

ただし、日常生活で感染することはほとんどありません。食器の共用や握手、会話などでうつることはないため、過度に心配する必要はありません。

一方、アルコール性や自己免疫性、脂肪肝に関連する慢性肝炎は感染の心配はありません。

慢性肝炎の治療法

治療は原因によって異なります。以下は代表的な治療法です。

  • B型肝炎: ウイルスの増殖を抑える薬(核酸アナログ製剤)を継続的に内服します。
  • C型肝炎: 飲み薬(抗ウイルス薬)による治療が進歩し、現在はほとんどの患者さんが完治可能です。
  • 自己免疫性肝炎: ステロイドなどの免疫抑制剤で炎症を抑えます。
  • 脂肪肝型: 食事・運動療法による体重管理、糖尿病や高脂血症の治療が基本です。

どの治療も、定期的な血液検査や画像診断による経過観察が欠かせません。

慢性肝炎とアルコール・食事の注意点

慢性肝炎では、肝臓に負担をかけない生活がとても大切です。特に注意が必要なのが「アルコール」と「食事」です。

  • アルコール: 肝臓に直接ダメージを与えるため、原則として禁酒がすすめられます。B型・C型などのウイルス性肝炎でも、アルコールの継続摂取は進行を早めることがあります。
  • 食事: 脂肪分・糖質を控えめにし、栄養バランスの取れた食事を心がけましょう。肥満気味の方は、少しずつでも体重を落とすことで肝機能の改善が期待できます。

なお、サプリメントや健康食品の中にも肝臓に影響を与えるものがあるため、自己判断での使用は控え、医師にご相談ください。

慢性肝炎は、初期には症状がほとんどない一方で、放置すると重大な疾患につながる可能性のある病気です。特に脂肪肝や生活習慣病と関連した肝炎は近年増加傾向にあります。当院では、血液検査や超音波検査を通じた早期発見に力を入れております。健診で肝機能異常を指摘された方や、気になる症状がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。