この記事を書いた人

消化器病学会専門医、内視鏡学会専門医、肝臓専門医であり日本内科学会認定医の資格を持ち、医師として約10年医療現場に立つ。
特に消化器疾患の分野に力をいれており、苦痛の少ない内視鏡検査によるフォローや大腸ポリープ切除、日々のQOLに関わる機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群といった機能性消化管疾患、現在注目を集めている膵疾患など幅広く診療する。
2025年秋に武蔵小杉でクリニックを開業予定。
自己免疫性膵炎とは
自己免疫性膵炎(Autoimmune Pancreatitis:AIP)とは、自分自身の免疫が何らかの異常によって膵臓を攻撃し、炎症や腫れを引き起こす疾患です。膵臓が硬く腫れたり、膵管が狭くなったりしますが、がんとは異なり、免疫を抑えるステロイド治療に反応しやすいことが特徴です。
また、この病気は膵臓だけでなく、胆管、唾液腺、腎臓など全身の複数の臓器に炎症が広がることがあり、「IgG4関連疾患」として分類されることもあります。
自己免疫性膵炎の診断基準
診断には、以下のような項目を組み合わせた「自己免疫性膵炎の診断基準(日本膵臓学会)」が用いられます。
- 画像所見:膵臓がびまん性または限局性に腫れており、主膵管が狭くなっている。
- 血清IgG4値:血液検査でIgG4(免疫グロブリン)の値が高い。
- 他臓器病変:胆道、唾液腺、腎臓などにも炎症が認められる。
- 組織所見:膵臓の生検でリンパ球や形質細胞の浸潤がある。
- ステロイド治療への反応:治療後、画像や症状が明らかに改善する。
複数の所見をもとに診断が行われ、膵臓がんとの鑑別が特に重要になります。
自己免疫性膵炎の症状
症状は人によって異なりますが、多くは以下のようなものがみられます。
- 上腹部の鈍い痛みや重さ
- 黄疸(皮膚や目が黄色くなる)
- 体重減少
- 食欲低下
- 倦怠感や微熱
腫れた膵臓が胆管を圧迫することで黄疸が出ることもあります。症状が膵がんに似ているため、慎重な検査が必要です。
自己免疫性膵炎の原因
明確な原因はまだ完全には解明されていませんが、免疫の異常な働きが中心と考えられています。通常であれば身体を守るはずの免疫が、何らかの理由で自身の膵臓を「異物」と認識し、攻撃してしまうことで炎症が生じます。
ストレス自体が直接の原因とは言えませんが、強いストレスがきっかけとなって免疫バランスが崩れることで発症に関与する可能性は否定できません。自己免疫疾患全般において、心身の状態と病気の発症・再燃には一定の関連があるとされます。
自己免疫性膵炎の治療方法
治療の中心は「ステロイド薬(プレドニゾロン)」による内服治療です。多くの場合、ステロイドを服用することで膵臓の腫れや症状が速やかに改善します。
治療の流れとしては、初期にやや多めの量を服用し、効果を確認しながら徐々に減量していきます。治療効果が高く、再発率もそれほど高くはないとされていますが、再燃のリスクがある場合には長期の維持療法が必要になることもあります。
再発時やステロイドに対する副作用が強い場合には、免疫抑制剤の併用が検討されることもあります。
自己免疫性膵炎と食事の注意点
自己免疫性膵炎の治療中、特にステロイドを服用している期間は、体重増加や血糖値の上昇、胃腸障害といった副作用が出やすいため、食事管理が大切です。
脂肪分や糖分を控え、栄養バランスの良い食事を心がけましょう。また、膵機能が低下している場合には、消化にやさしい低脂肪食を意識することがすすめられます。
アルコールは膵臓に負担をかけるため、禁酒が原則です。コーヒーや刺激物についても、医師の指導のもと、適切に制限しましょう。
自己免疫性膵炎は、がんと間違われることもある一方で、正しく診断されれば治療効果が高い疾患です。症状があいまいで気づきにくいこともありますが、早期に発見し、ステロイド治療を適切に行うことで、多くの患者さんが良好な経過をたどっています。
「膵臓が腫れていると言われた」「黄疸が出てきた」「膵がんかもしれないと不安」といった方は、早めに専門の医療機関で精密検査を受けることをおすすめします。当院では、血液検査・画像診断・治療計画まで丁寧に対応しております。ご不安なことがあれば、お気軽にご相談ください。