この記事を書いた人

消化器病学会専門医、内視鏡学会専門医、肝臓専門医であり日本内科学会認定医の資格を持ち、医師として約10年医療現場に立つ。
特に消化器疾患の分野に力をいれており、苦痛の少ない内視鏡検査によるフォローや大腸ポリープ切除、日々のQOLに関わる機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群といった機能性消化管疾患、現在注目を集めている膵疾患など幅広く診療する。
2025年秋に武蔵小杉でクリニックを開業予定。

膵管内乳頭粘液性腫瘍とは

膵管内乳頭粘液性腫瘍(すいかんないにゅうとうねんえきせいしゅよう/IPMN: Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm)とは、膵管の内側に発生する粘液を産生する腫瘍です。粘液によって膵管が拡張したり、腫瘍自体が大きくなったりするのが特徴です。

IPMNには以下の3つのタイプがあります:

  • 主膵管型:主膵管に発生するタイプ。がん化のリスクが高い。
  • 分枝型:膵管から枝分かれした細い管(側枝)に発生。比較的良性が多い。
  • 混合型:主膵管と分枝の両方に腫瘍が存在する。

悪性(がん)化の可能性があるため、定期的な検査と必要に応じた治療が重要です。

膵管内乳頭粘液性腫瘍の症状

IPMNは無症状で見つかることが多く、人間ドックや腹部超音波検査、CT、MRIなどで偶然発見されるケースが大半です。

一方で、腫瘍が大きくなる、あるいはがん化が進行すると、以下のような症状が出ることがあります。

  • 上腹部の鈍い痛みや違和感
  • 背中の痛み
  • 食欲不振、体重減少
  • 黄疸(膵管が詰まることによる)
  • 急性膵炎の繰り返し

とくに繰り返す膵炎は、IPMNに関連する特徴的な症状のひとつです。

膵管内乳頭粘液性腫瘍の検査

診断のためには、以下のような検査を組み合わせて行います。

  • 血液検査:腫瘍マーカーを測定し悪性化を検知します
  • MRI/MRCP:膵管の拡張や嚢胞の位置・形状を確認
  • CT検査:腫瘍の大きさ、石灰化の有無、リンパ節の状態などを評価
  • 超音波内視鏡(EUS):腫瘍内部の性状や壁の厚さ、結節の有無を詳細に観察特に、膵管径の拡張が10mm以上ある場合や、嚢胞内に結節がある場合は、がん化のリスクが高くなるため注意が必要です。

膵管内乳頭粘液性腫瘍は良性?

IPMNは腫瘍性病変であり、良性のものから、境界病変、悪性(膵がん)までさまざまです。特に主膵管型はがん化率が高く(約60%以上)、慎重な対応が求められます。

分枝型は良性で経過観察が可能なものもありますが、小さなものでも定期的な検査を怠ると、知らないうちに悪性化しているケースもあるため、「良性=放置してよい」わけではありません

膵管内乳頭粘液性腫瘍のガイドラインと手術適応

日本膵臓学会が発行する膵嚢胞性腫瘍の診療ガイドラインでは、以下のような所見がある場合に手術適応を検討するとされています。

  • 膵管径が10mm以上(主膵管型)
  • 嚢胞径が30mm以上かつ壁在結節(腫瘍性構造)を伴う
  • 急速な嚢胞の増大
  • 繰り返す膵炎
  • 悪性の疑いが高い画像所見(造影効果のある結節など)

高齢者や基礎疾患を持つ方では手術のリスクも考慮されるため、手術加療を行うかは個別の判断が必要です。手術加療は膵頭部切除や膵体尾部切除など、腫瘍の部位によって方法が異なります。

膵管内乳頭粘液性腫瘍の食事

IPMNに特化した食事制限は一般的ではありませんが、膵臓への負担を軽くする食生活がすすめられます。

  • 脂っこい食事(揚げ物・クリーム系)を控える
  • アルコールは膵炎のリスクを高めるため控える
  • 食物繊維を適度に取り入れ、腸内環境を整える

急性膵炎を繰り返している方は、膵臓の消化機能が低下している場合もあるため、消化にやさしい食事を心がけましょう。

膵管内乳頭粘液性腫瘍の予後

IPMNは、早期に発見、適切な管理により予後良好となることが期待できる病気です。部位と大きさにより個別に対応を検討し、血液検査やMRIなどの画像検査で経過観察を行います。悪性化を疑う際には手術加療にて完治を目指すため、症状がなくても定期的な観察がとても重要となります。また注意すべき点はIPMNの患者さんは嚢胞内以外にも膵がんの報告があり、嚢胞だけでなく膵臓全体をフォローする必要があります。

膵管内乳頭粘液性腫瘍は、膵がんとは異なり、早く見つけて適切に管理すれば、命にかかわらないことも多い病気です。ですが「良性だから大丈夫」と自己判断するのは危険です。定期的な画像検査と専門医の適切な判断が何より重要です。

当院では、膵嚢胞やIPMNを専門的に診療しており、画像検査や治療のご相談にも対応しています。「検診で膵嚢胞を指摘された」「膵臓が気になる症状がある」という方は、お気軽にご相談ください。早期発見・早期対応が、将来の健康につながります。