この記事を書いた人

消化器病学会専門医、内視鏡学会専門医、肝臓専門医であり日本内科学会認定医の資格を持ち、医師として約10年医療現場に立つ。
特に消化器疾患の分野に力をいれており、苦痛の少ない内視鏡検査によるフォローや大腸ポリープ切除、日々のQOLに関わる機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群といった機能性消化管疾患、現在注目を集めている膵疾患など幅広く診療する。
2025年秋に武蔵小杉でクリニックを開業予定。
脂肪肝とは
脂肪肝とは、肝臓に過剰な脂肪がたまった状態をいいます。正常な肝臓では脂肪は少量しか含まれていませんが、全体の30%以上に脂肪がたまると脂肪肝と診断されます。
脂肪肝には大きく分けて2つのタイプがあります。一つはお酒の飲みすぎによる「代謝機能障害アルコール関連肝疾患(MetALD」」、もう一つは飲酒とは関係なく食生活や生活習慣に起因する「代謝異常関連脂肪性肝疾患(MASLD)」です。後者は特に現代社会で増加しており、生活習慣病のひとつといえます。
脂肪肝の原因
脂肪肝の主な原因は、食べすぎ、運動不足、肥満といった生活習慣にあります。とくに糖質の過剰摂取(ごはん、パン、甘いもの)やアルコール、脂質の多い食事は肝臓に脂肪をためやすくします。また、糖尿病や高脂血症といった代謝異常も関係しています。
近年では、痩せていても筋肉量が少ない「隠れ肥満」タイプの人にも脂肪肝が見つかるケースがあり、体重だけで安心はできません。
脂肪肝の症状
脂肪肝にはほとんど自覚症状がありません。健康診断で肝機能の異常を指摘されて初めて気づく人が多く、進行しても「だるい」「疲れやすい」などのあいまいな症状にとどまることが一般的です。
ただし、脂肪肝が長く続くと「代謝異常関連脂肪肝炎(MASH)」に進行し、肝硬変や肝がんにつながるリスクがあるため、早めの対応が必要です。
脂肪肝と血液検査の数値
脂肪肝の診断では、血液検査で肝機能を評価します。とくに注目されるのがAST(GOT)とALT(GPT)という酵素の値です。これらが高値を示すと、肝臓に炎症がある可能性が考えられます。
ただし、脂肪肝の人すべてに数値の異常が出るとは限らず、見た目や体調が問題なくても肝臓に脂肪がたまっているケースもあるため、超音波検査(エコー)などの画像診断も併せて行われます。
脂肪肝に良い食事とは
脂肪肝の改善には、食事内容の見直しが欠かせません。基本は「バランスよく、摂りすぎず、脂質と糖質を控えめに」が原則です。
ご飯やパン、麺類などの炭水化物を減らし、代わりに野菜やたんぱく質(鶏肉・魚・豆製品)を意識的に摂ることが大切です。また、ジュースやお菓子、揚げ物、アルコールの摂取も控えめにすることで肝臓への負担を減らすことができます。
食事を抜くのではなく、質を変えていくことが継続のポイントです。
生活習慣の改善
脂肪肝の多くは、生活習慣の改善によって治すことができます。特に、体重の5〜10%を減らすことができれば、肝臓にたまった脂肪が大きく減少し、肝機能も改善することがわかっています。
急激なダイエットはかえって肝臓に負担をかけるため、1か月に1〜2kg程度のペースで緩やかに減量することが理想です。ウォーキングや軽い筋トレなど、日常の運動を少しずつ取り入れることも有効です。
つまり、「痩せれば治る」というのは正しいですが、それを継続できる形で行うことが大切です。
脂肪肝の治療
脂肪肝に特効薬はなく、治療の基本は生活習慣の改善です。医療機関では、肝機能の定期チェックや、必要に応じて薬による脂質代謝のコントロール(高脂血症・糖尿病の治療)を行うことがあります。
最近では腹部超音波検査で脂肪肝の程度を測定することができるため、状態の評価や推移を知ることで治療につなげることができます。
MASHなど進行した脂肪肝では、内服治療や肝がんへの経過観察も必要となることがあるため、放置せず専門医と連携して管理することが重要です。
脂肪肝は「太っている人だけの病気」ではありません。症状がなくても、肝臓は静かにダメージを受けている可能性があります。健診で異常を指摘された方、最近お腹が出てきたと感じる方、ダイエットが続かないと悩んでいる方は、ぜひ一度ご相談ください。当院では、血液検査や腹部エコーによる脂肪肝チェックのほか、無理のない生活改善のアドバイスを行っています。